スポーツにおけるスポンサーシップの意義 ~スポーツと企業が生み出す新たな価値創造への取り組み~

講師:秦 英之 氏(社会人アメリカンフットボール、アサヒビール・シルバースターOB)

今回講演してくださった、秦英之氏は南米ベネズエラで生まれ、幼少を海外で過ごしたあと、明治大学に入学。卒業後、ソニー株式会社に入社し仕事をする傍ら、アメリカンフットボールの強豪「アサヒビールシルバースター」にも所属し社会人リーグで3年間プレーしました。現在は、グローバルスポンサーシップを担当し、主にFIFA(国際サッカー連盟)とのスポンサード、テニスの錦織圭選手、ゴルフの上田桃子選手の個人協賛を担当するなど、ワールドワイドにご活躍されています。

講義では、前半は秦氏個人の生い立ちからスポーツビジネスに関わるようになったきっかけや出来事を当時のエピソードを交えながらお話いただきました。後半は現在担当されている、FIFAとのスポンサーシップにおける業務内容、個人協賛をしている錦織選手、上田桃子選手の両若手アスリートとのマネジメント業務を約2時間、熱く語っていただきました。

■プロフェッショナルとの出会い

入社したソニーでリチウムイオン電池の担当を任される。
「たかが電池。されど電池。」たった一つの電池に誇りを持って仕事をしている先輩達を見て、自分は「何を大切に生きているのだろう??」と自問自答の日々が続く。
自分の仕事に正面からぶつかり、誇りを持って仕事をしていた、“プロフェッショナルな先輩達”との出会いを通じて、「現場を知る」ことの大切さを実感。改めて自分を見つめ直すことで「スポーツを仕事にする」という沸々とした気持ちが芽生えることとなる。

■ゼロから始めた「JAPAN FIESTA 2005」

日本のアリーナフットボールチームからの依頼で、サンディエゴで行われた「JAPAN FIESTA 2005」の総合ディレクターを任される。
予算ゼロからのスタート。「どうやってお金を生み出そう?」「どうすればお客さんが集まってくれるだろう?」
試行錯誤の末、“サンディエゴに住む日系人のアイデンティティーを発する場”として大会をアピール。
多くの人の手によって開催されたイベントはテレビCMの告知の甲斐もあって、約5000人の観客がアリーナを埋め尽くし、大成功を収めた。
「予算なし、前例なし」のこのときのイベント運営が後に秦氏のビジネスにおおいに役立つこととなる。

■「TEAM YUKA」発足
「JAPAN FIESTA 2005」終了後、日本からスポーツを通じた「国際人の育成」を目的とした「TEAM YUKA」のコーディネートを依頼される。
元バスケットボール日本代表原田裕花さんを中心に世界へ挑戦する子供たちをサポート。
海外チームとの試合や生活を経験させることで小さい頃から「国際人」としての意識を感じさせ、スポーツを通して「人間性」を養う国際交流プログラムを立ち上げた。

■2005年、ソニー株式会社、FIFAとオフィシャルパートナー契約を締結

<実際の業務内容>
2007年から2014年までの8年の間に行われる、FIFAが主催する40を超える大会において、スポンサー企業としての各種権利行使が可能。 2010年南アフリカW杯、2014年ブラジルW杯でのPRはもちろんのこと、ソニー株式会社はクラブワールドカップ(CWC)、女子W杯、ユース年代のW杯と言われる「Blue Star」への協賛を積極的に行うことで、たくさんの観客の層にブランドアピールをしている。 実際にCWCではスタジアム内の広告ボード掲出、テレビ画面内のオンスクリーンIDの他に、「SONY」のイベントブースをスタジアム周辺に出展し、SONY製品を生かした各種アトラクションを用意し、子どもたちが楽しめるデジタルライフを提供している。

<企業として目指すべき理想>
・オフィシャルパートナーである他5社(adidas、Coca Cola、Emirates、Hyundai、VISA)と連携して、各社が有している特徴・強みを生かしながら、今よりももっと参加者・視聴者が楽しめる価値を共に創り上げられると思う。またそうしていかなければいけない。
・年々、W杯の試合自体の価値が高まる中、スポンサー企業として、大会に訪れる観戦者(参加者)が「どのようなことをスタジアムイベントに望んでいるのか?」「どういう販売促進が受け入れられるのか?」ということを真摯に考え、ニーズに合ったスポンサードをしていく必要がある。

<現在の問題点・課題>
・ブラッター会長、ジョージ・ベスト、ベッカムらも参加した、70年の歴史あるユース大会「Blue Star」にいろいろな国から参加をしてもらい、“育成の場”としての大会の位置づけを今後はしていかなければいけない
・企業側は「どのようにスポンサーシップをしていけばよいか?」という具体的な方策のアイデアがない。そういったアイデアを外から提案してスポンサードする企業とスポンサードされる組織(大会)を結びつける「真のスポーツ商社マン」が日本にはもっと必要である。アメリカのスポーツビジネスが繁栄しているように、日本にもそういった人材がどんどん増えていくことが、今後の日本スポーツビジネス発展のカギであると感じている。

<今後に向けての展望>
・EURO2008でも盛り上がりを見せた「パブリックビューイング」は今後も継続的に繁盛するだろう。スタジアム観戦以外での“楽しめる空間作り”をソニーのデジタル製品を生かしてサポートしていきたい。
・「顧客のニーズは何か?」をしっかりとつかみ、今あるスポンサードの形態よりももっと価値の高いものを創り出すことでたくさんの人に「ソニーブランド」を伝えていきたい。

■ソニーブランドを伝えていくアスリートたち

現在はプロテニスプレーヤー錦織圭選手、プロゴルフプレーヤー上田桃子選手とパートナー契約を結んでいる。
会社として若くて将来有望な選手を応援することで、「ソニーブランド」を若い人たちへ発信していく。
また、企業側からは本人たちにもしっかりと協賛の趣旨を伝え、理解させる作業を繰り返していくことで、選手を一人の人間としてしっかりと育てていく。
「選手は企業のブランドを発信するブランドアンバサダーである」

  • 西野努公式ブログ